「近未来金融システム創造プログラム」(第7期)へのお誘い
‐新たな時代の金融システムの担い手を育てる‐
ごあいさつ
金融は新たな転換期を迎えようとしています。
資本主義経済の血流ともいうべき「お金」を経済システムの中で循環させる役割を担う金融は、グローバル化を伴いながら拡大し、実体経済を支える「脇役」から、実体経済を超えてその行方を左右する巨大な存在となり、幾多のバブルとその崩壊・危機、それを追いかける規制の強化というサイクルを乗り越えて、むしろその存在感を強めてきました。それは、2008年から09年に起きたサブプライム危機と米大手金融リーマンブラザーズの破たん後の世界においても変わりません。金融は、常に時代の最先端の頭脳を魅了し、彼らの持つテクノロジーを取り込んできました。米ソ冷戦の終結に伴う国防分野のロケットサイエンティストのウォール街進出によるデリバティブや証券化商品市場の拡大、そして近年ではFintechと呼ばれる世界的潮流の中で、AI(人工知能)やビッグデータ、ブロックチェーン、電子決済の高度化や仮想通貨の広範な活用など、数々の技術革新の成果を取り込んで、ますます人々の暮らしに深く浸透しながら、巨大化し、複雑化し、時に潜行し、人類にとっていわば天使と悪魔の両方の顔を見せ始めつつあります。 ところが、その重要性にもかかわらず、そうした金融を高度なレベルで学び、社会の仕組みとして金融をデザインしたり、新たな事業を一から構築したりするなど具体的なアクションに結び付けるための「武器」を身につけられる教育の場は、わが国ではこれまで提供されてきませんでした。これが、これまでのわが国の国際競争力における金融ビジネス分野の相対的弱さの背景の一つとして挙げられます。 本プログラムでは、過去から現在にいたる金融の全体像を理解し、遠い将来でなく近未来の金融市場・金融システムを形づくり、支えるであろう最先端の科学的知見と応用技術、それらを使いこなし、人々の暮らしに役立てるための規制やベストプラクティス構築などの取り組み、そしてそこに横たわる複雑な課題について、それぞれの分野を代表する科学者・ポリシーメイカー・起業家などとともに考えることを通じ、様々な分野でこれからの金融システムを創造し主導していく次世代人材を育成することを狙いとし、これまで5年間の取り組みを行なってきました。 その意味で、理学・工学分野において世界的に高い評価を得ている東京大学という舞台は、改めてその狙いにふさわしい学びと思考の場であると考えています。講師には、各分野で最先端を開拓し、現実にディールをドライブしている日本を代表する研究者・官僚・実務家を起用し、それぞれの分野における「知の格闘」の空気に触れる機会を提供し、講師・受講者相互または受講者間のネットワーキング形成にも資する枠組みを取り入れています。さいわい、第1期は東京大学をはじめとする大学・大学院から世界的金融機関・コンサルティングファーム、中央官庁の若手から中堅幹部、ジャーナリズムなどを含む約80人の受講生を得て、その取り組みは成功裏に終わったと考えています。同時に、修了生のネットワーク「近未来金融研究会」も発足しました。第2期・第3期では、人工知能・AI分野を中心にプログラムを大幅に拡充し、受講生からのフィードバックも踏まえて、新年度のプログラムも大幅に見直し、新しい金融のリターンについて議論を掘り下げる試みも盛り込みました。「近未来金融研究会」の活動もいよいよ活発になり、メンバー主導での合宿(増上寺合宿)や特別講座などの活動も開催されました。また、第4期からは、本プログラムの第1回から第13回目(座学中心の部分)は、東京大学大学院工学系研究科の科目「システム創成学特別演習4C」として開催、要件を満たす学生に対しては単位認定を行うことになり、新たなステージに入りました。それにともない、意欲ある他大学・大学院の学生、起業家や高度専門職を目指す優秀な社会人から選抜された本プログラムの参加者は新たに「指定討論者」という立場で特別演習に参加することになり、東京大学の内外から多様性のある参加者が切磋琢磨するコミュニティを作っていく新たな取り組みが始まっています。第5期では、国内外の物理的な壁を越えて、海外の大学院に在籍する受講生や在外研究中の研究者が参加したハイブリッド講義も開催され、講義からスピンアウトしたワークショップなども開かれました。新年度(第7期)の新たな受講者(参加者)にも、「指定討論者」としての積極的な参加を通じて、本プログラムの活性化に貢献されるとともに、他では得られない学びの機会を大いに活用されることを期待しています。
(2023年3月)