プログラム
1. プログラムの狙い
金融は新たな転換期を迎えようとしている。
資本主義経済の血流ともいうべき「お金」を経済システムに循環させる役割を担う金融は、グローバル化し巨大化し、実体経済を支える脇役から、実体経済を超えそれを左右する巨大な存在となり、幾多のバブルとその崩壊・危機、それを踏まえた規制の強化を乗り越えて、むしろその存在感を強めてきた。その過程で、金融は常に最先端のテクノロジーをとりこみ、米ソ冷戦終結に伴うロケットサイエンティストのウォール街進出によるデリバティブや証券化市場の拡大、近年ではFinTechの潮流の中でAIやビッグデータ、ブロックチェーン、電子決済や仮想通貨など数々の技術革新をとりこんでますます巨大化・多様な顔を見せはじめつつある。
本プログラムでは、そうした過去から現在にいたる金融の全体像を理解し、遠い将来でなく近未来の金融市場・金融システムを支えるであろう最先端の技術、それらを使いこなし、人々の暮らしに役立てるための取り組み、そこに横たわる諸課題について考えることを通じ、金融システム・金融ビジネスのディスラプションの視点も踏まえて、様々な分野でこれからの金融システムを創造し主導していく次世代人材を育成することを狙いとしている。
2 .概要
実体経済と金融の関わり、資本主義における金融の役割、技術と金融の融合、などについて理解し、思考し、プログラムの後半では近未来の金融システムにおいて各参加者が果たす役割にどのようなものがあるか、具体的に構想し、金融システムを創造するアクションに結びつけられることを狙いとし、理論と実践の高いレベルでの融合を狙ったオムニバス形式の講義プログラムとする。講師には各分野で最先端を開拓し、現実にディールをドライブしている日本を代表する研究者・実務家を起用。それぞれの分野の空気に触れる機会を提供する。とくに後半ではパネルディスカッションの形式も取り入れ、座学にとどまらない講師・受講生の間のディスカッションを通じて、講師・受講者相互または受講生間のネットワーキングにも資する枠組みをとりいれる。このため、受講生には単なる聴講にとどまらない積極的な参加を期待する。なお、近未来金融システム創造プログラム参加者は東京大学の「特別演習」における「指定討論者」として講義に参加することとする。
3.講義スケジュール
1 |
4月 |
イントロダクション 実体経済と金融 |
和泉潔 東京大学大学院工学系研究科教授 |
2 |
4月 |
資本主義と金融 |
安田洋祐 大阪大学大学院経済学研究科 教授 |
3 |
5月 |
金融と技術(概論) |
谷山智彦 株式会社野村総合研究所 デジタルアセット研究室長 |
4 |
5月 |
金融DXと新しい規制の枠組み |
佐々木清隆 一橋大学大学院 経営管理研究科 客員教授・初代金融庁総合政策局長 |
5 |
6月 |
投資ファンドは何を目指すか |
戸矢博明 ソラリス・マネージメント株式会社 |
6 |
6月 |
消費と金融の融合現象と変化する金融リターン |
中山亮太郎 株式会社マクアケ代表取締役社長 加藤信介 エイベックス株式会社 執行役員 谷山智彦 株式会社野村総合研究所 デジタルアセット研究室長 赤井厚雄 株式会社ナウキャスト 取締役会長 |
7 |
6月 |
Embedded Financeと |
伊藤祐一郎 株式会社Finatextホールディングス 取締役CFO 森田宗男 元金融庁金融国際審議官 赤井厚雄 株式会社ナウキャスト 取締役会長 |
8 |
7月 |
仕掛学と金融の近未来 |
松村真宏 大阪大学大学院経済学研究科 教授 |
9 |
10月 |
金融と技術(各論Ⅰ)機械学習の発明 |
甘利俊一 理化学研究所 栄誉研究員・東京大学名誉教授 |
10 |
10月 |
金融と技術(各論Ⅱ)ディープラーニング |
松尾豊 東京大学大学院 工学系研究科 教授 |
11 |
10月 |
金融と技術(各論Ⅲ)AIは人間をどうとらえるか |
矢野和男 東京工業大学 情報理工学院 特定教授 |
12 |
11月 |
金融と技術(各論Ⅳ)オルタナティブデータと金融 |
和泉潔 東京大学大学院工学系研究科教授 |
13 |
12月 |
金融と技術(各論V)ブロックチェーンと金融システム |
斉藤賢爾 早稲田大学大学院経営管理研究科 教授 |
(14) |
12月 |
Fintechパネル |
林良太 株式会社Finatextホールディングス 代表取締役社長CEO 他 |
(15) |
2024年2月 |
総括討議 |
赤井厚雄 株式会社ナウキャスト取締役会長 他 |
4. 受講に必要な(事前の)基礎知識、スキルなど
本プログラムの参加者は、東京大学大学院「2023年度 システム創成特別演習4C 近未来金融システムの創成」(全13回)における「指定討論者」となる意欲と資質を有することが求められる。
また、基礎的なマクロ経済学、金融数学についての基本的知識をもっていることが望ましいが、必須ではない。
5. 教科書
受講が認められたものに対し、4月25日(火)の受講日までに必読図書および推薦図書のリストを配布する。必読図書は各回の講義受講の前提となる基礎的内容に関する基本教科書、推薦図書は各回の講師が当日のトピックスに縛られず現時点で取り組んでいる研究や実務の取り組みを知ることで講義を立体的に理解する材料と位置づけ、それらを事前に読んでくることを前提に講義を行う。